普通の日記コーナー

★05/01/12   ナイロン弦を斬る Part3

恒例となって参りました「ナイロン弦を斬る」シリーズの第3弾です(^_^;)。今までに何度か弦のレポートというか使用感などを 書いたりしていました。なお、過去の弦の記事は、

02/12/02 「ナイロン弦を斬る」
03/09/30 「新しい楽器での弦選び」
04/05/14 「ナイロン弦を斬る Part2」

です。久々に読み返してみると結構今と印象違ってたりして・・・(^^ゞ。

今までいろいろ弦を試して来たのですが、たいてい弦を張り替えるときは前の弦の寿命を迎えたときが多く、 古い弦と新品の弦との比較になってしまいがちでした。それだとなんとなく新品の時の印象を覚えてはいるものの、 同じ新品同士での正当な比較になりません。それとどうしても前に使っていた弦との比較になるので、3回前の弦と 今回の弦、などの比較が出来ていませんでした。

つい最近、友人の楽器の弦選びと称して、一度にいろいろな弦をとっかえひっかえ張って試す機会がありました。 すると、その場で次々と替えたり元の弦に戻したりすると、結構弦のイメージって今までと違うんですよね。 面白かったので、友人の楽器で試した後に、自分の楽器でも弦をとっかえひっかえして弾き比べてみることにしました。

ということで、その友人の楽器と自分の楽器で試していろいろ気づいたことを気ままに書いていきたいと思います。


<楽器と弦>

弦にはいろいろなイメージがあります。粗さがあるが健康的に良く鳴るドミナント、クリアで芯の強さを持つエヴァピラッツィ、 深みとやわらかさが印象的なオブリガート、楽器の力を最大限に引き出すヴィジョンチタニウム、などなど。でもこれらの 弦のイメージは楽器との組み合わせによって全くがらっとその印象を変えてしまうことが少なくありません。なので、 「弦は張ってみないとわからない」と良く言われます。確かにその通りなのですが、いろいろな弦をいろいろな楽器に 張って試していると少しずつ見えてくるものがあります。例えば、「この楽器はテンションの高い弦ほど能力を発揮する」、 「この楽器はざらざらしやすいので、クリアで音のたつ弦が合うだろう」、「この楽器は少々ざらつきを持っている弦の方が 音に味が出る」などなど・・・。楽器と弦の相性というだけでなく、そこには楽器の調整も深く関わってくるわけですが、 あまり話を複雑にしてしまうと訳が分からなくなるので、今回は楽器と弦選びの視点からいろいろ考えていきたいと思います。


<G線の開放弦のクリアさ>

楽器と弦の相性、あるいは楽器の特性が顕著に出るのがG線のクリアさのように思います。G線がクリアかというのは いろいろな楽器と比べないと基準がわからないかもしれませんが、例えばG線をはじいたときに、「ポーン」という 透る音がする楽器と、「ボン」と濁って余韻の短い楽器を比べると良くわかります。もちろん「ポーン」の方が クリアなわけですが、クリアでない楽器というのは、クリアな楽器でナット(上駒)のあたりを左手で押さえてはじいた ような音、あるいは半年以上使ったドミナントのような音がします。ちなみにこのはじいた音はクリアさが少々オーバー にでる傾向があり、多少濁りがあっても弾くとあまり気にならない場合がありますので、弾いてみないと正しい判断は 出来ません。ただ、はじいて濁りのかなり気になる楽器というのは弾いていても弦がきれいに振動せずに、 音の芯がなくガサガサした音になることが多いです。

さて弦ですが、楽器によってはどんなG線を張ってもクリアになることもありますし、弦を選ぶこともありますし、 はたまたどんな弦を張っても濁ってしまう楽器もあります。もちろんどんな弦を張ってもクリアな楽器は苦労しないわけですが、 弦によって、あるいはどんな弦でも濁りの出る楽器は弦によって全く弾き心地や音色が変わってしまうことが多いので、 弦選びが難しいです。また、G線の相性良ければ他のD,A線の相性が良いことが多かったように思います(音の好みなどはまた別ですが)。

今までいろいろな楽器で試した感じでは、比較的濁りが出にくいのはエヴァピラッツィ、ヴィオリーノ、オブリガート、トニカ、 ヴィジョンチタニウム、標準的なのがドミナント、インフェルド、オリーブ、やや濁りが出やすいのがコレルリヴィヴァーチェアリアンス、 ザイエックス、ヘリコアでした。もちろん全ての楽器に当てはまるわけではなく、今のところ試した限りはこういう傾向が多かったという だけで、実際にはヴィオリーノやオブリガートで濁ってしまう楽器もありましたし、ヘリコアでクリアな音になる楽器もありました。 ちなみに自分の楽器では、濁りの出にくい、標準的、に含まれる弦はどれも非常にクリアですが、ザイエックスとヘリコアでやや濁り、 コレルリはかなり濁った音になりました。コレルリヴィヴァーチェはハイポジでのコントロール性も良く、出来たら使ってみたい弦なのですが、残念ながら 自分の楽器では濁りがひどくて使うことが出来ませんでした。

ちなみに、このG線のクリアさというのは楽器選びの時にも一つの目安にしています。調整の良し悪しで幾分かよくなったりも しますが、経験上G線の濁りのある楽器というのは調整でなんとかなるものではないので、新品のドミナントを張ってあってG線が 濁っている楽器があったら、よほど他に気に入る点がない限りその楽器は選択肢から外してしまいます。少なくとも名器、もしくは名器までは いかなくとも良い楽器でG線の濁りがある楽器はあまり見たことがありません。ちなみにストラドは1台しか弾いたことありませんが、 信じられないほどG線がクリアでした! ただし、G線がクリアだから良い楽器というわけではないので念のため・・(^_^;)。

しかしこのG線の濁り(G線に限りませんが・・)っていったい何なんでしょうね? 弦がきれいに振動していないように 見えるのですが、楽器側が弦の振動を妨げる、あるいは弦の振動を乱すというような何か原因があるのでしょうね。 なお、弦だけがブリブリと濁りながら鳴っていて楽器が鳴っていないような場合、耳元では音量があるように感じても 音が遠くまで通らないことが多いです。また、非常にクリアな音の楽器には、むしろ少し濁りのある弦を張った方が 豊かな音になることもあるようです。

独断と偏見によるクリア度ランキング(細かい順位は適当かも・・)

クリア

・ヴィジョンチタニウム、ヴィジョン
・エヴァピラッツィ
・ヴィオリーノ
・オブリガート
・トニカ
・インフェルド
・ドミナント
・オリーヴ
・ヘリコア
・ザイエックス
・オイドクサ
・コレルリヴィヴァーチェアリアンス

濁り


<音の立ち、反応と弾きやすさ>

音の立ちと反応は弾きやすさに大きく影響しますが、音の立ちと反応って同じようで全く違うもののようです。 以前の日記などではあまり区別していなかったので「反応が良い」「反応が悪い」などと簡単に書いてしまって いましたが、よく考えるとちょっと違うんですよね。ということでここでは、弓を置いて動かし始めたときの 音の立ち上がりのシャープさ、はっきり度を「音の立ち」、弓を軽くスッと弾いたときに音もすぐにスッと立ち上がるか、 弓の動きに対する弦の追従度、みたいなものを「反応」と呼んでいきます。

まず「音の立ち」ですが、音の立ちが鋭い楽器というのは弾きはじめの音がとてもシャープで、フォルテなどの時に 鋭いエッジの効いた音が出しやすいです。反面、軽い弓(弓そのものの重さでなく弓圧)ではピアニシモが出しづらかったり(反応が悪い)、 弓の返しなどでエッジが立ちやすく、なめらかなボウイングが難しかったり、激しいボウイングでは雑音ばかりが目立ってしまうことがあります。 スイートスポットが狭いとも言えるでしょう。逆に音の立ちの穏やかな楽器は音の立ち上がりが鈍く、 音の子音が出しにくいためメリハリやキレといったものに欠ける反面、弓の返しが目立ちにくく、右手の動きに対する 許容度が高いため多少の右手の乱れを吸収してくれるといったメリットもあります。

なので、音の立ちは鋭すぎず穏やかすぎず、ほどよいバランスというのがあるかと思うのですが、楽器が多少どちらかに 偏っている場合に弦を選ぶことでいくらか緩和出来るようです。音が立ちすぎる楽器には、ヴィオリーノ、オブリガート、 コレルリヴィヴァーチェアリアンス、ひどい場合にはオリーヴやオイドクサなどのガット弦が音の立ちを穏やかに してくれるように感じました。逆に音の立ちの鈍い楽器の場合はドミナント、インフェルド、ヴィジョンチタニウム、 エヴァピラッツィ、トニカなどである程度音の立ちを改善出来るようです。

さて今度は「反応」ですが、反応の良い楽器というのは軽い弓でのピアニシモでも音がかすれずに弓が弦をとらえることができ、 弓で弦に軽く触れただけでスッと音が出せるので、とても弾きやすく感じます。逆に、反応の悪い楽器というのは弾きはじめが 重かったり、ピアニシモで弓が弦をとらえきれずに音がかすれたりしてしまい、弾きにくいと感じます。

なので、もちろん反応が良いに越したことがないのですが、多くの場合反応が良い楽器というのは音量が小さかったり、弓圧を高くすると 音がつぶれやすく底が浅く感じたりします。が、とりあえずここでは反応という観点での弦選びを考えてみましょう。 反応の良い楽器は比較的どの弦でも合うと思いますが、反応の悪い楽器の場合はヴィオリーノ、オブリガート、コレルリヴィヴァーチェアリアンス などが合うようです。逆にインフェルドやエヴァピラッツィ、ヴィジョンチタニウム、ドミナントのSterkあたりは楽器の反応が悪いと スイートスポットが狭くなり(メゾピアノ以上の音しか出せない)、とても弾きにくくなるようです。

ちなみにこの「音の立ち」と「反応」ですが、傾向として新作は音の立ちが鋭く反応が悪い、古い楽器は音の立ちが鈍く反応が良い、 というのを感じます。もちろん楽器による個体差の方が大きいわけですが、新作は弾きにくいけど音がはっきり出る、オールドは 弾きやすいけど音のフォーカスが甘い、という傾向はあるかと思います。ただ、モダン〜オールドの良いものは反応が良くて音の立ちも良いようで、 その究極であるストラドなどは、音の立ちが良いのに触れただけで音が出るくらい反応が良いので決して雑音にならず、意のままに全ての音を 操れるんですよね(^_^;)。弾いていて不安がないというか、次の音が自分の思ったとおりに出せるだろうかということを全く考えないで 弾けるのです。「楽器のせいでうまく音が出せない」ということが皆無だったので本当にビックリでした。あれはある意味反則です(^_^;)。

独断と偏見による弾きやすさランキング(細かい順位は適当かも・・)

弾きやすい

・ヴィオリーノ
・ヘリコア
・コレルリヴィヴァーチェアリアンス
・オブリガート
・トニカ
・オリーヴ
・ヴィジョン
・ドミナント
・エヴァピラッツィ
・ヴィジョンチタニウム
・インフェルド
・ザイエックス

弾きにくい


<音量>

さて今度は音量です。上述の音の立ちと反応は弾きやすさに与える影響が大きいのですが、弾きやすさを優先したり すると音量が犠牲になったりとなかなか難しいところです。さて、音量のある楽器には音質重視の弦を、音量のない楽器には 音量を優先した弦を張ると良いというのはもちろんなのですが、楽器のタイプによる音量の傾向を少しだけ触れてみたいと 思います。まず新作に多い、反応が悪いけど音の立ちが鋭いという楽器は比較的音量があります。弾きやすさを優先して 板を薄くしたような新作の場合は、反応が良くなる反面音量が犠牲になるようです。古い楽器では弾きやすいけど音量がない、 もしくは弾きやすく音量もあり高い(!)、という場合が多いようです(^_^;)。

弦による音量の違いですが、あまり解説してもしょうがないのでとりあえず音量があると思う順番に並べてみましょう。 もちろん楽器によって、また僕の思いこみで多少順番が異なるかもしれません(上記のものも同じく、あくまで一例です)。 なお、ヘリコアは楽器によって違いが大きすぎるので除外してます。

音量大

・ザイエックス(Strong)
・ドミナント(Sterk)、ヴィジョンチタニウム
・エヴァピラッツィ、インフェルド、ザイエックス
・ドミナント
・トニカ、コレルリヴィヴァーチェアリアンスG線
・ヴィジョン
・オブリガート
・オリーヴ
・ヴィオリーノ、コレルリヴィヴァーチェアリアンスA,D線
・オイドクサ

音量小



<明るさ>

楽器によって、暗い音色の楽器、明るめの音色の楽器がありますが、これは弦の銘柄を選ぶことでかなり 変わります。最初の「クリアさ」などは楽器に依存する部分が非常に大きいのですが、この明るさという 要素は思った以上に弦で好みの音に変えることが出来ます。エヴァピラッツィ、インフェルド青、などはとても明るく 輝かしい音なので古い暗い音色の楽器に合いますが、元々音色の明るい新作楽器などに張るとやかましいキンキンと した音になったりします。逆にオブリガートやコレルリヴィヴァーチェアリアンス、ヴィオリーノ、オイドクサ、オリーヴなどは 明るめの楽器の音を落ち着かせてくれるようです。

明るい

・インフェルド(Blue)
・エヴァピラッツィ
・ドミナント
・ヴィジョンチタニウム
・トニカ
・インフェルド(Red)
・ヴィジョン
・ザイエックス
・コレルリヴィヴァーチェアリアンス
・ヴィオリーノ
・オリーヴ
・ヘリコア
・オブリガート
・オイドクサ

暗い



<音の豊かさ>

音の豊かさ、あるいは深みといわれるものですが、これは上述の明るさと大体似ているものの若干傾向が違う部分も あります。深みのある音色といえばガット弦であるオリーヴやオイドクサですが(そういえばこの日記のタイトルって ナイロン弦だったような・・)、ついでオブリガート、コレルリヴィヴァーチェといった弦が続きます。 なお、ヘリコアは音色は暗めなのですがわりとあっさりしているというか、シンプルな音色のようです。

シンプル

・ヘリコア
・インフェルド(Blue)
・インフェルド(Red)
・エヴァピラッツィ
・ドミナント
・ヴィジョンチタニウム
・ヴィジョン
・トニカ
・ヴィオリーノ
・ザイエックス
・コレルリヴィヴァーチェアリアンス
・オブリガート
・オリーヴ
・オイドクサ

豊か



<弦がなじむまでの期間>

弦を張ってすぐというのは、弦が伸びやすく調弦を頻繁に行わなければなりません。またガット弦だと 音自体も張ってすぐよりも少し時間が経ったときの方が良いことが多いです。ブレークイン、 すなわち弦を張ってから調弦や音に気を遣うことなく使用出来るまでの期間というのは弦によって非常に 大きな差があります。これは差が大きいので大体の時間を書いておきます。

早い

・ヘリコア、ヴィジョンチタニウム、ヴィジョン(2〜3時間)
・インフェルド、ドミナント、ザイエックス(半日)
・コレルリヴィヴァーチェアリアンス、エヴァピラッツィ、オブリガート、ヴィオリーノ、トニカ(1〜2日)
・オリーヴ、オイドクサ(3〜6日)

遅い



<寿命>

これも弦によって全く違いますね。実際の期間は練習量や汗の量などによっても変わってきますが、 長寿命な弦の代表といえば、ヘリコア、オリーヴ、オイドクサなどですね。ただ、どの弦も切れやすいため 古くなって交換というより切れるまで使うという方も多いかもしれません(意外とヘリコアも切れる)。 ついでコレルリヴィヴァーチェアリアンスやザイエックス、オブリガート・・と続き、最も寿命の 短い弦はヴィジョンおよびヴィジョンチタニウムのようです。楽器の音色の明るさによっては ヴィジョンシリーズは長寿命に感じる場合もあるようですが・・。なお下記のランキングは 自分で試したわけでないものもありますので、正確かどうかは・・。

長寿命

・ヘリコア、オリーヴ、オイドクサ(切れるまでor半年)
・コレルリヴィヴァーチェアリアンス(4ヶ月)
・ザイエックス(3ヶ月)
・オブリガート、ヴィオリーノ(2ヶ月)
・エヴァピラッツィ、トニカ(1ヶ月半)
・ドミナント、インフェルド(1ヶ月弱)
・ヴィジョン、ヴィジョンチタニウム(2〜3週間)

短命



<音がひっくり返る>

E線で顕著ですが、A〜G線でもひっくり返るという現象に悩まされることがあります。ひっくり返るという現象は 2タイプあって、一つが開放弦などで弓を返すときや、弓を弦に置いて弾き始めるときにひっくり返るパターン、 もう一つはスラーなどで指を置いた時に発音されずにひっくり返る場合です。

まず最初の弓を返すときや開放弦の弾きはじめでひっくり返る場合ですが、これは音の立ちすぎる楽器によく起こるみたいです。 はっきりとした原因はわかりませんが、弓が弦をとらえきれないようで、この症状が出るときはコレルリヴィヴァーチェアリアンス、 ヴィオリーノといった音の立ち過ぎを和らげる弦でおさまることが多いです。オブリガートもそれほどひどくない場合であれば 使えるようです。逆に、ドミナント、ザイエックス、インフェルド、ヴィジョンチタニウムなどはこういう症状があるときは 避けた方が良いようです。

次にスラーなどで音が発音されなかったりする場合ですが、これは比較的でまれに見られる症状のようですが、オブリガート、 エヴァピラッツィ、ザイエックスで経験しました。振動が戻りきらないのかよくわかりませんが、まるでウルフのような音になります。 オブリガートのA線で特に顕著で、こういう場合はドミナントやインフェルドが比較的良い解決策となりました。



ということでいろいろ書いてきましたが、「この弦がこう!」ということよりも「こういう場合にはこの弦!」という方が 実際は大切なのかなと思って、今までと書き方を変えてみました。弦のインプレッションみたいなつもりで読もうとすると 実に読みにくいのですが・・(^_^;)。

なお、E線についても近々まとめてみたいと思います。E線のひっくり返る現象、とてもやっかいですね・・。


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