またまた久しく更新をさぼってしまいましたm(__)m。更新をさぼるつもりはなかったのですが、いろいろと忙しかったのと、
浮かんでくるネタももう少しあとで書きたい内容だったりで、しばらくご無沙汰となってしまいました。
今日は以前から"ひいき"にしているヴァイオリニスト、ジェームズ・エーネスさんについて少し書きたいと思います。
カナダ人のヴァイオリニスト、ジェームズ・エーネスさんの演奏と初めて出会ったのは2004年にNHK-BS2で再放送された
ヴァイオリンリサイタル(2003.7)の録画でした。名前も演奏も知らない演奏家だったのですが、国会中継やらで何度も放送中止になって、
そのたびにBS2の番組予定に掲載し直されていたのでなんとなく名前は覚えていました。これだけしつこく放送してくれるんだから
みてみようかな、と思って録画予約をして出かけました。
さて夕方家に帰ってきて早速録画のチェックです。オープニングを飛ばしエーネスさんの入場後から再生。
エーネスさんって若手の人だったんだ、なんて思いながらバッハの無伴奏パルティータ2番が始まりました。
「ん?この人、弓の持ち方変じゃないか? 小指伸びちゃってるし、弓元でも小指が浮いて薬指で支えてる。いいのか??」
と最初は弓の持ち方に戸惑いました。それと、そのころ僕はバッハの演奏は、最近流行となりつつある「モダン楽器でバロック風の弾く」
というのに親しんでいたため、表情豊かに歌い上げる演奏にも違和感がありました。
しかし演奏を聴き進めるうちにどんどんその印象が変わっていきました。意外と上手いかも? いやかなり上手いかも。
いや上手いなんてもんじゃない、素晴らしい! ・・・と気づくと完全に演奏に引きこまれていました。
一見かたく感じたボウイングですが、音を聴いたらその見事なまでの音に魅せられましたし、表情の豊かさやセンスの良さは
もはや自分のバッハに対する音楽的な好みというものを打ち崩してしてしまうほどのものでした。所々、自分の好みや考えていた感覚と
違う部分があるのですが、聴いているうちに自分が染まってしまうというか「これが一番いいかも」と思わされてしまうものが
あるのです。エーネスさんのバッハは、少し前まで多かったシェリングのような緻密に積み上げるスタイルと、現在の
バロック奏法に近いスタイルの中間的な感じで、少し前向きなテンポと表情の豊かさがアルマンドからシャコンヌに向かっていき、
全5曲を大きな一つのドラマとして造りあげていました。
バッハの後はヴィニアフスキの「創作主題による華麗なる変奏曲」です。演奏前に調弦をするのですが、その音のデカイこと!(笑)
普通はステージ上での調弦は静かにやるものなのですが、おかまいなしにAとD、DとG、AとEを響かせます。でもその開放弦の響かせ方が
半端じゃないのです。どうやったらあんな音が出せるのか? 楽器? 腕? いやはや調弦の音まで素晴らしいとは(笑)。
さてヴィニアフスキですが、それまでバッハで抑圧されていたものを解き放つように、オープニングからエネルギッシュな
和音の連続です。和音ってあんなに響くものなんだろうか、という程見事なヴィブラートのかかった和音に圧倒されました。
その後もG線のハイポジを4の指で響かせてみせたり、目にもとまらぬレガート、左手pizzとarcoの同時奏法、ダブルストップの連続、
猛烈なマルテレスタッカート、フィナーレと完璧かつエネルギッシュな素晴らしい演奏でした。このような難曲を生の演奏で
完璧に弾くのは相当難しいハズですが、CD並の完璧さで弾ききってしまうのには脱帽でした。演奏直後に「ブラボー!」の声が
聞こえますが、僕も思わず画面に「ブラボー!」と叫びたくなりました(^^ゞ。
エーネスさんの演奏の魅力は、まずその「音」にあります。深いヴィブラートと共に創り出されるあの響きは特別なモノがありますが、
特にG線の響かせ方というか楽器の鳴らし方というか、ああいう音の出し方が出来る人というのはなかなかいませんね。
一流の演奏家でも楽器の音を少しでも引き出そうとして弓で弦を押しつぶして平べったい音になってしまう方が多いですが、
あの奥行きのある音は本当に素晴らしいです。
右手に関していえば、一見伸びきって突っ張っているように見える小指は弓に軽く触れているだけで弓の動きの邪魔をせず、
薬指は強さと柔らかさを兼ね備えていて小指を使わなくても弓を完璧にコントロールしているようです。普通はあんな真似は
出来ないと思うのですが、生まれながらの天性か、努力のたまものなのでしょうね。ボウイングは実に無駄のない動きで、
腕や手首、指のしなりは必要最小限です。一見、腕や手首などが大きくしなっている弾き方はやわらかく見えて素人受けする
(上手く見える)のですが、僕はどちらかというとエーネスさんのように余計な動きが必要最小限でかつやわらかい音の
出せるボウイングが好きです。ちなみにいろいろな演奏家のボウイングの見た目のやわらかさと音のやわらかさは
一致しないことが多いのが面白いです。
左手は正確無比で、全てのポジションが「守備範囲」に見えました。どんなハイポジションでも彼にとっては1stや3rdポジションと
全く同列なのかもしれません。もちろんそう出来るように意識していくべきものなのですが、なかなか出来ることではありませんね。
それと、指の動きは実に効率的です。場面に応じて指を上げる高さ、置くときの指の角度や部位など、ほとんど無意識だとは
思うのですが実に効率的で無駄がないですね。
音楽的には僕の好みもあるのでしょうが、停滞せずに流れが一貫しているところが良いですね。ただ後ろ向きのみの
演奏(フレーズの最後で必ずritあるいはタメが入ってしまうような)は退屈してしまいますし、かといって前進あるのみで
突き進んでいく演奏は緊張させられて疲れてしまいますが、その辺の使い分けというかバランスの取り方がとてもいいです。
それと、曲全体をとらえて音楽を創っていくところや、神経が途切れやすい音の細部まで音楽を歌わせるところ、かつ重くならないあたりなども見事です。
音程も正確で、発散しない程度に明るい音程でとても好みです。
という素晴らしい演奏家でヨーロッパではかなり知られているようなのですが、意外なことに日本では知名度が低いようです。
どうもエーネスさんのCDは日本では国内版は見あたらず、海外版も入手しづらいようですね。エーネスさんの公式ホームページ
James Ehnes Official Website (英語)を見る限り14枚CDをリリース
していることがわかりますが、日本ではパガニーニのカプリースくらいしか見かけません。僕はAmazon、HMVなどで探しに探して、