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日記帳

05/08/11   バッハ 無伴奏ソナタとパルティータ


バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタとパルティータはいわずとしれた名曲ですが、この曲はおそらく聴き手以上にヴァイオリン弾きにとって とても大きな存在であるように感じます。「バッハ」という言葉に何か特別な力があるのではないかと思うほど、「バッハを弾く」ということに 特別な思い入れを感じてしまう人も少なくないでしょう。というか、「バッハを弾く」という言葉を「バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ&パルティータを弾く」 という意味に脳内変換してしまうのは、ヴァイオリン弾きだけでしょうね(笑)。

さてそんなバッハですが、数十年前と今では演奏スタイルが大分変わってきているようですね。少し前まではバッハといえばシェリングの演奏がバイブルとされてきていて、 音の始まりから終わりまでしっかりと弓圧をかけて弾くような濃厚で緻密な演奏が好まれました。ヴィブラートもたっぷりかけ、淡々としたリズムで、 弓の返しが目立つくらいに音の端から端まで均一に鳴らし、3〜4和音などではメロディラインを強調するために和音を弾ききった後に弓を戻したりなど・・。

しかし最近ではバッハの原点に返ろう、バロックを見直そうという動きがあり、バロックヴァイオリンでのバロックスタイルでの演奏が見直されています。 そしてモダン楽器の世界でもバロックの音楽表現、奏法を採り入れたスタイルが広まりつつあります。速めのテンポと動きのあるリズム感、 控えめなヴィブラート、軽めの弓圧と速い運弓から生み出される独特の響き、一つ一つの音の重みよりも流れと響きに重点をおいているように感じます。 でもその程度というか、昔ながらの重厚奏法とバロックの奏法の間のどこに位置するかというのは人それぞれのようで、最近録音されたいろいろな CDを聴いてみると違いが面白いですね。

というわけで、以前の日記ともダブる部分もありますが最近聴いたCDを少しご紹介。


<バロック楽器による演奏>

まずは本家のバロックヴァイオリンからですが、レイチェル・ポッジャーの演奏は、クリアな響きと淀みないテンポが実に素晴らしいです。 技術も相当高く、聴いていて物足りなさというものは全く感じません。また奏法はバロックそのものなんですが、 音楽はどこか現代的というか新鮮さを感じるのが面白いです。バロック演奏としては現在一押しです(^_^;)。シギスヴァルト・クイケンの演奏はこれぞバロックという演奏ですが、 ポッジャーを聴いた後だと正直、技術的なキレにおいて物足りなさを感じてしまいました。ルドルフ・ゲーラーはバッハ弓といわれる 湾曲弓を使った貴重な演奏ですが、ソナタ1番のアダージョの出だしで4和音が同時に鳴り響いているのを聴いたときはカルチャーショックを 受けました(^_^;)。ピッチが現代と同じで、表現もあまりバロック風ではないのですが、非常に貴重な録音で一度は聴いてみる価値がありますね。



<バロックスタイルを採り入れたモダン楽器による演奏>

今度は普通のモダン楽器&弓を使いながらも、ややバロックのスタイルを採り入れた演奏ですが、ミリヤム・コンツェンの録音が素晴らしいです。 残念ながら他の無伴奏曲とのカップリングのためパルティータ第3番しか収録されていないのですが、音の響かせ方、テンポ感、音楽のまとめ方、技術の全てが秀逸です。 おそらく他のバッハの曲も素晴らしい演奏を聴かせてくれると思うので、全曲録音に期待したいところですね。少なくともパルティータ3番は彼女の演奏が 今まで聴いた中で一番素晴らしかったです。ちなみにカップリングされているイザイの無伴奏ソナタ4番などは、バッハを弾くスタイルのまま弾いてしまっているので、 ちょっとなんだかな〜と思いました。イザイもあまりベタベタ弾くのは好きじゃありませんが、バロックでないことは確かです。 クリスチャン・テツラフの演奏もなかなか良いですが、コンツェンに比べるとまだスタイルがまとまって いないというか、やや粗さを感じます(音の粗さではありません)。でもなかなかの名演だと思います。ちなみにこの録音はバロックピッチ(A=415Hz前後)では ないのですが、現代のピッチ(A=440〜443Hz)に比べると明らかに低く感じます。435Hzなど変則的なピッチにしているんでしょうかね?


<やや古いスタイルのモダン楽器による演奏>

いわゆる昔のシェリングのような演奏をする人はもうあまりいませんが、どちらかというとバロック度(?)の低い演奏もご紹介します。 まずはジェームズ・エーネスの演奏ですが、バロックのスタイルもあまり感じなく、かといってシェリングのような濃厚な路線でもない、 言ってしまえばロマンチックバッハといえるような演奏です。スタイルだけを聴いてしまうと古さを感じてしまうのですが、やはりセンスの良さと 音色の美しさに魅せられてしまいます。パルティータ3番のガヴォットなど最初は重さを感じるのですが、 少し弾きにくいフレーズでのメロディのつながりの見事さなど、なぜそこをそれほどまでに美しい音楽にしてしまえるのかと思ってしまうほどです。 通常音楽は右手から生まれるといいますが、左手の技術に他の一流演奏家と比較しても明らかに差を感じてしまうほど、左手から生まれる音楽が見事です。 ヒラリー・ハーンはデビューアルバムとしてバッハの無伴奏をリリースしましたが、ややエーネスに似たスタイルでの演奏です。 音色の美しさなど非常に好感を持てる演奏ですが、さすがに17歳ということもあってか消化不良の部分もあり、その辺はエーネスに比べてやや 物足りなさを感じてしまいます。でもトータルでみたら良い演奏だと思います。ジャケットも美しいですし(^_^;)。


というわけで様々なスタイルの演奏を聴きましたが、やはり思うことは「良い演奏はスタイルに関わらず良い」ということですね。 ポッジャー、コンツェン、エーネスはそれぞれスタイルが違いますが、どれも非常に素晴らしい演奏です。また少なくとも「演奏はいまいちだけどスタイルが美しい」 などと感じる演奏は一つもありませんでした。良い演奏はスタイルを飛び越えて「これが一番素晴らしい演奏だ!」と納得させる何かを持っていますね。

さて以上は聴き手としての視点ですが、弾き手の立場から考えるというのは非常に難しいことですね。もちろん家でだけ趣味として弾く分にはどんなスタイルで あろうと自分の好みでかまわないわけですが、公開演奏をして名曲の素晴らしさを聴衆に示すという立場で演奏していくとなると、 自分の考えや好み、時代のニーズなどをよく考えていかなければなりません。もちろん作曲者や聴衆に媚びることだけが全てではありませんし、 かといって独りよがりの自己満足でも演奏家はつとまらないわけです。その辺のバランス感覚というかそういったものは本当に難しいなと 思います。でも多くの演奏家が同じように悩み、考え、そして演奏を行っているのかもしれませんね。その結果、バッハに関して 現在様々なスタイルで演奏されているのでしょう。

ただ、少し気になるのは、多くのバロック奏者がバロックに対する理解が広まることを歓迎する一方、一部から最近のそうしたモダン楽器でのバロックスタイルを採り入れた演奏に対して 「所詮本物ではない」「中途半端」などという意見が出てしまうのは残念なことです。ヴィオラ専門の方が、ヴァイオリンから持ち替えでヴィオラを弾く人のことを「にわかヴィオラ弾き」などと 言うのに似ていますが、バロック奏者がオリジナルの時代や歴史を大切にするのと同じように、現在のこのようなスタイルも大切な時代、歴史の1ページであると 思うのです。本来のオリジナルバロック演奏、今のバロック風スタイル、どちらもとても価値があるものだと思います。

バロックvsモダンなんていうと、バロック楽器からモダン楽器への変化は「進歩」なのか「改悪」なのか、みたいな議論を思い出します。 楽器も音楽も時代が進むにつれて良いと思われて変化していくものが自然だと思いますし、また本当に良いものは年月が経った後でも再注目されてまた人々の 心をつかむことでしょうね。変化を受け入れることと、古いものを大切にすること、どちらも大切なことだと思いますが、 これは音楽に限らず全てに共通することかもしれませんね。

と偉そうにいろいろ書いておきながら、突然「自分自身はどういう演奏をするのか」と問われるとすぐに答えなんて出ません(^_^;)。多くの演奏を聴き、いろいろな話を聞き、いろいろ考えて いくしかないですね。自分の好みを言うとバロックのスタイルの響きに惹かれながらもエーネスのようなロマンティシズムにも未練がある、というところ でしょうか。ただ、「どんなスタイルか」よりも「どんな演奏か」が大切だということは忘れてはいけませんね。 結局は、「素晴らしいものは誰が何というと素晴らしい」のですから(^_^;)。

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