しばらく前までヴァイオリンの弦というものはそれほど種類がありませんでした。いや、ないわけではないのですが、
メジャーとなる弦、多くの人に評価されている弦というと非常に限られていました。短命だけど輪郭がはっきりしていて明るくパワフルなドミナント、
やわらかい落ち着いた音色のオイドクサ、高価だけどパワーと音色の深みと輝きを兼ね備えたオリーブ、だいたいこのくらい
でしょうか。事実、いまだに弦といえばドミナントしか使ったことないしそれ以外は知らないという人もいるとかいないとか。。。
最近になってドミナントに続くナイロン弦がずいぶんリリースされてきました。それまでの、「結局はオリーブかドミナント」という定説を
打ち破る非常に良い弦が多くの方に評価されて使われています。そこで、最近使ったナイロン弦を独断と偏見でまとめてみることにしました。
<ドミナント>(トマスティーク)
いわずと知れた定番中の定番。パワーと芯の強さ、倍音豊かな明るい音色、そして安い(!)というのが特徴です。
どんな楽器でもその能力を最大限に引き出してくれる弦です。特に名器との相性が良いらしく(名器を持っていないので確かめようがありませんが・・)、
一流演奏家のCDジャケット写真ではほとんどドミナントが張られています。ここ数年はわかりませんが、しばらく前は
ドミナントがスタンダードだったとと言えるでしょう。ただ、寿命が短いこと(なかなか切れないのですが、
音色が良い状態なのは2週間から1ヶ月)、またパワフルで明るい音色の楽器ではキンキンしてしまってやかましい、
雑音(ザラザラ感)が多くて気になる、などということがあります。ちなみに僕の楽器には音色は合うのですが、
テンションが高いためかG線やD線の普通に押さえた音でもひっくり返りやすく神経質すぎるので、残念ながら
使うことが出来ません。
<オブリガート>(ピラストロ)
これは最近といっても結構前の弦ですね(^_^;)。それまではA線にドミナント、D,G線にオリーブを張っていたのですが、
新製品の弦が出たと聞いたので早速試してみたというのが97年だか98年の冬だった気がします。オブリガートの特徴は、
その音色の深みと表現力(ニュアンスの幅)です。オリーブに近い音で、独特の味わいがあります。ただ、パワーが少し控えめであるのと、
芯が弱い感じで、やわらかい音の楽器に張るとぼやけたような音になることがあります。また、弾いたときのざらざらとした
ノイズが独特の味わいを生み出しているのですが、ノイズが目立ちやすい楽器だとガサガサした音になる場合があります。
トータルで見れば、多くの楽器に合うとても良い弦だと思います。使い方にもよりますが、賞味期限はドミナントの3倍くらいです。
僕の楽器では音色は最高でしたけど、芯の弱さがちょっと残念でした。
<トニカ>(ピラストロ)
この弦がいつ出たかはっきりと覚えていないのですが、気づいたら使ってる人がいたという弦です(^_^;)。
わりとパワーがありしっかりとした音ですが、ドミナントに比べると少しおとなしい感じがします。その分ドミナントのような
ザラザラ感ややかましさは目立ちませんが、音色の深みがあまりないのはドミナントと同じです。優等生的でバランスの取れた
弦だと思います。特徴に欠けるかなと思いますが、分数サイズの設定があることとドミナントよりも長持ちするということで、
分数サイズの子供の生徒さんにはドミナントよりもトニカをお勧めしています。
<インフェルド>(トマスティーク)
ドミナントの進化版(?)としてリリースされた弦です。ドミナントのクセ、特に初期のザラザラ感が抑えられてますが、
基本的にはほとんどドミナントと同じ性質の弦です。インフェルドには落ち着いた響きの赤、華やかな青、という音色の違う2つのタイプが
用意されていますが、もともとベースとなっているドミナントが華やかな弦ですので青はうるさすぎてあまり好まれず、赤が主に
使われているようです(僕ももちろん赤の方が好きです)。ちなみにドミナントとインフェルドはほとんど変わらないと思いますが、
初期のじゃりじゃりが好きな人はドミナントを好むかもしれません。
<エヴァピラッツィ>(ピラストロ)
オブリガートの音色は好きだけど、パワーと芯の弱さ(ぼやけた感じ)が今ひとつ、と思ってたころに出た弦です。
とにかくパワーがあり倍音も豊かで明るく相当華やかな音ですが、ドミナントのようなザラザラ感が全くなく、とてもクリアな
ノイズの少ない音です。またオブリガートほどでないにしても音色の深みや表現力はドミナントとは段違いです。
パワーのない楽器や暗い音の楽器に張ると、まるで楽器が生き返ったかのように鳴り出します。もともとパワーの
ある楽器に張るとやかましくなりますが、ドミナントに比べるとノイズが少なく音色の深みもあるために
使いやすいかもしれません。ただしパワーはドミナント以上ですが(^_^;)。寿命はオブリガートよりは若干短いようですが、
ドミナントの倍以上持つと思います。とても良い弦だと思うですが欠点が一つ。ちょっと(?)高価なのです。
G線を除くとおそらく一番高価な弦だと思います。G線はさすがにオリーブよりは安いですが(^_^;)。
僕の楽器には最も合う弦かなと思っています。
<ヴィオリーノ>(ピラストロ)
ピラストロがエヴァピラッツィの次に出してきた弦で、学生用の弦ということになっています。
使ってみると、同じピラストロのナイロン弦であるオブリガートやエヴァピラッツィに比べるとテンションが
低くてとても弾きやすく感じます。軽い弓圧でも音が出しやすく、弾いているうちに手の力が
自然と抜けてきます(だから学生用なのかな?)。パワーは控えめでやわらかい音です。ザラザラ感が独特の味わいを生み出すのは
オブリガートと同じため、その良い点と悪い点も同じです。音色の深みや味わいはオブリガートほどでない
ですし、パワーもオブリガートよりも控えめなため、少し中途半端かなという気がします。ただ、ピアニッシモの表現力は
素晴らしいものがあり(オブリガートなどよりも上)、「良い音を出す」ということを学べる弦だと思うので
自分の生徒さんにもお勧めしています。僕の楽器にはちょっと物足りなく感じました。
<ロイヤルオークファイバー>(ロイヤルオーク)
ネット上の情報で「ロイヤルオークファイバーという弦がいいらしい」と聞き、早速試してみました。
落ち着いたやわらかい音なのですが、倍音が豊かなために決して暗くはなくむしろ明るいという印象です。
また響きも独特で、ドミナントのようにガンガン鳴るわけでも、オブリガートのようにしっとりと鳴るわけでもなく、
楽器が自然に響くような感覚です。表現力も豊かですが、音の深みとノイズはエヴァピラッツィに近いものがあります。
パワーそのものはそこそこにありますが、ガンガン鳴るというタイプではありません。オブリガートのような音色が
好きだけどちょっとぼやけた感じとザラザラが気になる、かといってエヴァピラッツィは派手過ぎる、なんて
人には一番のお勧め弦かもしれません。
ということで、最近良く使われている弦を中心に取り上げてみました。せっかくなので適当ですが表にでもしてみましょうか?(^_^;)
といっても自分の楽器以外ではそんなに何本も試していないので、あくまでも一例です。楽器によっては全く違う印象に
なる場合があります(^_^;)。
銘柄 | ドミ | オブリ | トニカ | インフェ | エヴァ | ヴィオ | ロイファ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
パワー(強5←→1弱) | 4 | 2 | 3 | 4 | 5 | 1 | 3 |
明るさ(派手5←→1落ち着き) | 5 | 2 | 4 | 5 | 5 | 2 | 4 |
深み(深い5←→1軽い) | 1 | 5 | 1 | 1 | 3 | 5 | 3 |
ノイズの小ささ(クリア5←→1ノイジー) | 1 | 3 | 3 | 2 | 5 | 3 | 4 |
必要な弓の圧力(重い5←→1軽い) | 5 | 3 | 4 | 5 | 3 | 1 | 2 |
表現力(豊か5←→1均一) | 1 | 4 | 2 | 1 | 3 | 5 | 4 |
寿命(長5←→1短) | 1 | 4 | 3 | 1 | 3 | 4 | 5 |
値段(安い5←→1高い) | 4 | 2 | 5 | 4 | 1 | 3 | 2 |
・ドミ | :ドミナント |
・オブリ | :オブリガート |
・トニカ | :トニカ |
・インフェ | :インフェルド(赤) |
・エヴァ | :エヴァピラッツィ |
・ヴィオ | :ヴィオリーノ |
・ロイファ | :ロイヤルオークファイバー |