普通の日記コーナー |
★02/12/02 ナイロン弦を斬るしばらく前までヴァイオリンの弦というものはそれほど種類がありませんでした。いや、ないわけではないのですが、 メジャーとなる弦、多くの人に評価されている弦というと非常に限られていました。短命だけど輪郭がはっきりしていて明るくパワフルなドミナント、 やわらかい落ち着いた音色のオイドクサ、高価だけどパワーと音色の深みと輝きを兼ね備えたオリーブ、だいたいこのくらい でしょうか。事実、いまだに弦といえばドミナントしか使ったことないしそれ以外は知らないという人もいるとかいないとか。。。 最近になってドミナントに続くナイロン弦がずいぶんリリースされてきました。それまでの、「結局はオリーブかドミナント」という定説を 打ち破る非常に良い弦が多くの方に評価されて使われています。そこで、最近使ったナイロン弦を独断と偏見でまとめてみることにしました。 <ドミナント>(トマスティーク) いわずと知れた定番中の定番。パワーと芯の強さ、倍音豊かな明るい音色、そして安い(!)というのが特徴です。 どんな楽器でもその能力を最大限に引き出してくれる弦です。特に名器との相性が良いらしく(名器を持っていないので確かめようがありませんが・・)、 一流演奏家のCDジャケット写真ではほとんどドミナントが張られています。ここ数年はわかりませんが、しばらく前は ドミナントがスタンダードだったとと言えるでしょう。ただ、寿命が短いこと(なかなか切れないのですが、 音色が良い状態なのは2週間から1ヶ月)、またパワフルで明るい音色の楽器ではキンキンしてしまってやかましい、 雑音(ザラザラ感)が多くて気になる、などということがあります。ちなみに僕の楽器には音色は合うのですが、 テンションが高いためかG線やD線の普通に押さえた音でもひっくり返りやすく神経質すぎるので、残念ながら 使うことが出来ません。 <オブリガート>(ピラストロ) これは最近といっても結構前の弦ですね(^_^;)。それまではA線にドミナント、D,G線にオリーブを張っていたのですが、 新製品の弦が出たと聞いたので早速試してみたというのが97年だか98年の冬だった気がします。オブリガートの特徴は、 その音色の深みと表現力(ニュアンスの幅)です。オリーブに近い音で、独特の味わいがあります。ただ、パワーが少し控えめであるのと、 芯が弱い感じで、やわらかい音の楽器に張るとぼやけたような音になることがあります。また、弾いたときのざらざらとした ノイズが独特の味わいを生み出しているのですが、ノイズが目立ちやすい楽器だとガサガサした音になる場合があります。 トータルで見れば、多くの楽器に合うとても良い弦だと思います。使い方にもよりますが、賞味期限はドミナントの3倍くらいです。 僕の楽器では音色は最高でしけど、芯の弱さがちょっと残念でした。 <トニカ>(ピラストロ) この弦がいつ出たかはっきりと覚えていないのですが、気づいたら使ってる人がいたという弦です(^_^;)。 わりとパワーがありしっかりとした音ですが、ドミナントに比べると少しおとなしい感じがします。その分ドミナントのような ザラザラ感ややかましさは目立ちませんが、音色の深みがあまりないのはドミナントと同じです。優等生的でバランスの取れた 弦だと思います。特徴に欠けるかなと思いますが、分数サイズの設定があることとドミナントよりも長持ちするということで、 分数サイズの子供の生徒さんにはドミナントよりもトニカをお勧めしています。 <インフェルド>(トマスティーク) ドミナントの進化版(?)としてリリースされた弦です。ドミナントのクセ、特に初期のザラザラ感が抑えられてますが、 基本的にはほとんどドミナントと同じ性質の弦です。インフェルドには落ち着いた響きの赤、華やかな青、という音色の違う2つのタイプが 用意されていますが、もともとベースとなっているドミナントが華やかな弦ですので青はうるさすぎてあまり好まれず、赤が主に 使われているようです(僕ももちろん赤の方が好きです)。ちなみにドミナントとインフェルドはほとんど変わらないと思いますが、 初期のじゃりじゃりが好きな人はドミナントを好むかもしれません。 <エヴァピラッツィ>(ピラストロ) オブリガートの音色は好きだけど、パワーと芯の弱さ(ぼやけた感じ)が今ひとつ、と思ってたころに出た弦です。 とにかくパワーがあり倍音も豊かで明るく相当華やかな音ですが、ドミナントのようなザラザラ感が全くなく、とてもクリアな ノイズの少ない音です。またオブリガートほどでないにしても音色の深みや表現力はドミナントとは段違いです。 パワーのない楽器や暗い音の楽器に張ると、まるで楽器が生き返ったかのように鳴り出します。もともとパワーの ある楽器に張るとやかましくなりますが、ドミナントに比べるとノイズが少なく音色の深みもあるために 使いやすいかもしれません。ただしパワーはドミナント以上ですが(^_^;)。寿命はオブリガートよりは若干短いようですが、 ドミナントの倍以上持つと思います。とても良い弦だと思うですが欠点が一つ。ちょっと(?)高価なのです。 G線を除くとおそらく一番高価な弦だと思います。G線はさすがにオリーブよりは安いですが(^_^;)。 僕の楽器には最も合う弦かなと思っています。 <ヴィオリーノ>(ピラストロ) ピラストロがエヴァピラッツィの次に出してきた弦で、学生用の弦ということになっています。 使ってみると、同じピラストロのナイロン弦であるオブリガートやエヴァピラッツィに比べるとテンションが 低くてとても弾きやすく感じます。軽い弓圧でも音が出しやすく、弾いているうちに手の力が 自然と抜けてきます(だから学生用なのかな?)。パワーは控えめでやわらかい音です。ザラザラ感が独特の味わいを生み出すのは オブリガートと同じため、その良い点と悪い点も同じです。音色の深みや味わいはオブリガートほどでない ですし、パワーもオブリガートよりも控えめなため、少し中途半端かなという気がします。ただ、ピアニッシモの表現力は 素晴らしいものがあり(オブリガートなどよりも上)、「良い音を出す」ということを学べる弦だと思うので 自分の生徒さんにもお勧めしています。僕の楽器にはちょっと物足りなく感じました。 <ロイヤルオークファイバー>(ロイヤルオーク) ネット上の情報で「ロイヤルオークファイバーという弦がいいらしい」と聞き、早速試してみました。 落ち着いたやわらかい音なのですが、倍音が豊かなために決して暗くはなくむしろ明るいという印象です。 また響きも独特で、ドミナントのようにガンガン鳴るわけでも、オブリガートのようにしっとりと鳴るわけでもなく、 楽器が自然に響くような感覚です。表現力も豊かですが、音の深みとノイズはエヴァピラッツィに近いものがあります。 パワーそのものはそこそこにありますが、ガンガン鳴るというタイプではありません。オブリガートのような音色が 好きだけどちょっとぼやけた感じとザラザラが気になる、かといってエヴァピラッツィは派手過ぎる、なんて 人には一番のお勧め弦かもしれません。 ということで、最近良く使われている弦を中心に取り上げてみました。せっかくなので適当ですが表にでもしてみましょうか?(^_^;) といっても自分の楽器以外ではそんなに何本も試していないので、あくまでも一例です。楽器によっては全く違う印象に なる場合があります(^_^;)。
ちなみに高級ナイロン弦にはコレルリアリアンスという ものもありますが、音色がやわらかいとのことで僕の楽器には合わないかなということで試していません(値段が安ければ 合わなさそうでも試すのですが・・・)。聞いた話では落ち着いたやわらかい音色で、またオブリガート以上に寿命が長い らしいです。 それと、これらは全てA〜G線の話です。E線は全くこれらの銘柄の違いがあてになりませんし、E線だけ違う銘柄を使う場合が 多いのでE線はE線だけでまとめたいとおもいますが、ピラストロの新製品E線「No.1」というのが出たらしく、弦楽器のエフストリングスにてすでに注文したのでそれを試してからに しようかなと思っています(^_^;)。My ViolinのE線情報もそのあといろいろ試してかなり見解が 変わっているので、早く更新しなくては。。。(^_^;) ちなみに、よく初心者でドミナントを切れるまで使うという方がいらっしゃいます(アンケートにもありました)。確かにドミナントは切れにくいので、 切れるまで使おうとすると意外と長寿命の弦と言えるかもしれません。ただし、ドミナントは劣化が早く練習量が多くなくても 半年も使ったら新品の状態とはまったく変わってしまいます。劣化したドミナントは振動が均一でなくなるため音程がよくわからないような にごった音になりますし、とても振動しにくくなるので必要以上に弓の圧力をかけることになります。劣化したドミナントで 練習をするということは、1)音程感を養うをする上で大切な耳を鈍らせる、2)必要以上に弓を押し付けるためゴリ弾きのクセが付き 良い音色を出すボウイングが身に付かない、といった弊害を招きかねませんので、練習して少しでも上達しようという気持ちのある方には ドミナントを切れるまで使う、ということは決してお勧めできません。もし長く使いたいのであれば、切れるまで劣化の非常に少ない ヘリコアをお使いになられることをお勧めします。ヘリコアを半年使ってもドミナントを2ヶ月使うよりも劣化が少ないです。 最後に。。。BBSにもちょっとだけ書きましたが、先日テールピースを替えました。今まで使っていたのと同じGEWAのツゲのものなんですが、若干形状が違います。 材質が同じで形がほんの少し違うくらいなので音なんて変わらないと思ったら、前よりも断然楽器の響きが良くなったのです。 張ってる弦が一ヶ月使ったものなのですが、それから新品に張り替えた以上のしっかり感というか無駄なく全域にわたって 鳴りが良くなりました。ほんの少し細くなっただけなのにこれほどまでに音が変わるとは驚きでした。気のせいかとも 思いましたが(そんなはずはないけれど)、やはり数日経っても楽器出して弾いた瞬間に違いを感じるので、違いは確かな ものなのでしょう。近々写真などを載せたいと思います。 <追記 02/12/03> 弦をいつ換えたらよいかという質問を時々受けます。使い方や練習量、弦の種類によって異なりますが簡単な目安を書いておきます。 まずは大きな本番(演奏会や発表会)に出来るだけ良いコンディションで臨みたいという場合ですが、最近のナイロン弦でしたら練習量の多い方(1日4時間以上)では本番の1〜3日前、 練習の少ない方(1日30分〜1時間)では3〜5日前、ほとんど楽器に触れない場合でも1週間前には張り替えておきましょう。 ちょうど本番の頃に弦がなじんで音が最も良く伸び、かつ演奏中に調弦が狂いにくくなっていると思います。なお、オリーブやオイドクサなどのガット弦は 張ってから1週間以内にも切れることがあるという怖さがありますが、ナイロンにはその心配がほとんどなく新しいほど切れにくく安心、 と思って良いと思います。 なお、本番がなくて練習目的であってもある程度劣化したら交換した方が良いです。その周期ですが、 練習量の多い方(1日4時間以上)ではドミナント&インフェルドでは2〜3週間、それ以外のナイロン弦では1〜1ヶ月半。 1日1〜2時間の方ではドミナントで1ヶ月半、それ以外のナイロン弦で2〜3ヶ月。 時々しか楽器に触れない人ではドミナントで2〜3ヶ月、それ以外で3〜6ヶ月というところでしょうか。 ちなみに汗をよくかく方の場合はこの限りではなく、表面の金属(アルミなど)が傷んだら早めに取り替えましょう。 E線はさびやすいので他弦よりも早めに換えた方が良いです。大きな本番に臨む場合は、狂ったツボに慣れないためにも1〜2週間前に一度交換し、 再度前日か当日に新品に換えるのが良いでしょう。E線は張ってからの伸びがほとんどないので(なぜか伸びるヘリコアのE線スチールを除く)なるべく本番に近い方が 良いと思います。またサビによるツボの狂いに左手が慣れないように少し前にも一度換えておくことをお勧めします。 本番がないときのE線を交換するサイクルですが、練習量とか期間でなく表面のサビが少しでも表れたら換えた方が良いです。E線のサビは、新品時に 銀色(または金色)だったものが黒っぽく指板の色に溶け込んでくるになるのですぐわかります。E線はさびるとつぼが狂い、 同じ音程を出すための指を置くポイントがどんどんずれてきますので早めの交換が大切です。よほど楽器を触る機会が少ない人を除き、 1ヶ月程度で換えることをお勧めします。E線は安いのでこまめに換えましょう(^_^;)。なお、そんなにしょっちゅう楽器弾くわけじゃないから こまめに換えてられない、汗かいてすぐさびるけど毎週かえるのはめんどくさすぎる、という方はオリーブやインフェルド赤などの金メッキされたものを お勧めします。値段は普通のスチールの3倍くらいしますが、さびにとても強いので練習量がそれほど多くない方で あれば2〜3ヶ月程度持ちます。金メッキ線は高級弦、というよりは高寿命弦といえるかもしれませんね(^_^;)。 |