先日、友人宅にレコーディングに行ったとき、「The Art of Violin」というビデオを見つけました。
聞くと20世紀の巨匠貴重な映像と音を集めたものだそうで、面白そうなので借りてみることにしました。
家に帰り早速再生。メニューインのモーツァルトがオープニングで、それが終わるとメンデルスゾーンの協奏曲(以下メンコン)の
メドレー。オイストラフ、スターン、フェラス、クライスラー、ミルシテイン、メニューイン、グリュミオー、
ハイフェッツ、エルマン、と主題ごとに交代しながら1楽章を奏でていきます。時代も様々ですので白黒だったり
カラーだったり、映像なくて音だけだったりしますが、一度にたくさんの巨匠の演奏を目にすることが出来て
感激でした。とりわけ展開部で登場するミルシテインは圧巻です。なにがすごいって、言葉では言い表せない
のですが、上品でエネルギッシュでスマートで・・・。あまりに痺れてしまったので、一日一回はミルシテインの
弾いているメンコンのフレーズをおもわず弾いてしまいます。もちろんミルシテインのようには全く弾けないのですが(爆)。
メンコンメドレーのあとはいろいろな曲を多くの巨匠たちが奏でていきます。途中途中で解説(インタビュー)が
入りますが、僕の拙い英語力では半分も理解できないのが悲しいです(T_T)。ちなみに解説しているのは
パールマン、ヒラリー・ハーン、ギトリス、イダ・ヘンデルなどです。ギトリスとヘンデルは若い頃の演奏も
登場しています。
第1部第2部と分かれていますが、巨匠の演奏を見たいというところからするとあまり変わりなく楽しめました。
非常に多くの巨匠の多くの演奏が納められているのですが、印象的なものを挙げたいと思います。
<ナタン・ミルシテイン>
まずはなんといってもミルシテイン。僕は完全にこのビデオで彼の演奏の虜になりました。先のメンコンもそうですが、
オケをバックにコンチェルトを弾いた後のアンコールだと思われるバッハの無伴奏ソナタ3番の「Allegro assai」。
これは82年すなわち78歳のときの演奏なのですが、年齢の割にすごいとかそういう次元でなく感動しました。
これほど熱く、そして心を打たれるバッハはきいたことがありません。あまりに感動してしまってついつい練習してしまい、
前回のコンサートでも弾いてしまい、今はレパートリーにしてしまったほどです(^_^;)。なので僕がバッハを弾くのは
ミルシテインのおかげです(^_^;)。バッハ以外にも彼の演奏は登場していて、そのいずれもが素晴らしいものでした。
またフィンガリングの天才といわれる彼の左手はすごいですね。どんな難曲でも余裕を持って弾いているように見えます。
ミルシテインの音はとても上品です。
<ダヴィッド・オイストラフ>
オイストラフはメンコンの他にフランクのソナタ、バッハのドッペル(二つのヴァイオリンのための協奏曲)、
ハチャトゥリアンとショスタコービッチのコンチェルトなどで登場しますが、小細工のない、でも魔法のようなボウイングに
惚れ惚れします。なんであんなスピード弓が動くのか不思議に思ってしまいます。そしてそこから出てくる音は本当に素晴らしいですね。
ショスタコのカデンツァはもはや伝説的な名演です。フランクでは音に対する情熱というか意思というか、
そういったものにとても衝撃を受けました。どうやったらあのように音に魂を吹き込むことが
出来るのでしょうかねぇ・・・。
<ヤッシャ・ハイフェッツ>
猛烈なテンポで弾きあげるチャイコフスキーのコンチェルトは、凄みを感じます。華麗なるポロネーズも
これぞヴィルトゥオーゾという凄まじい演奏です。どちらも直立不動のままボウイング、フィンガリングともに人間離れした
動きをしています。某友人いわく、ハイフェッツの演奏は人間の物理的常識を超越している、だそうですが、まさにそのとおりと
感じられる演奏でした。あの右手と左手・・・彼は超人です(^_^;)。ちなみに彼の録音はどれも直接音が多いですが、
それはマイクを極端に近づけることをハイフェッツが望んでいたからだそうで、コンサートホールで聴く彼の音は
本当に素晴らしいものだったそうです(とパールマンが言っておりました)。
<ジョゼフ・シゲティ>
登場はごく少ないのですが、シューベルトの「The Bee」はしびれました。今で言うお立ち台のようなところで
弾いているのですが、その華麗なテクニックに終わった直後に嵐のような拍手。僕も思わず一緒に拍手しそうになりました(^_^;)。
彼はなんともいえない甘い音色を持っていますね。
<レオニード・コーガン>
彼は僕がとても尊敬しているヴァイオリニストなのですが、ブラームスのハンガリー舞曲17番は独特のリズム感と
その音色に聞き惚れてしまいます。中間部のアダージョの美しさは言葉で言い表せないほどです。ハチャトゥリアンのコンチェルトでは
あの自然なボウイングの動きがねたましくさえ思えてしまいます(^_^;)。ちなみにハンガリー舞曲もこのコーガンの演奏を聴いて、
気づいたら練習していて結局コンサートでも弾いてしまいました(^_^;)。コーガンの音は僕が最も好きな音の一つです。
力強く、あたたかく、色っぽいのです(^_^;)。
<ジノ・フランチェスカッティ>
一曲しか登場しないのですが弾いている曲は、なんとバッジーニ「妖精の踊り」。
彼のCDは2枚くらいしか持っていなかったので、こんなにすごかったんだと改めて思い知らされました。
<ヘンリック・シェリング>
このビデオで彼の印象が大きく変わりました。緻密で丁寧というイメージがあったのですが、
コーガンとメドレーしているハンガリー舞曲17番(イダヘンデル〜コーガン〜シェリングの順でした)、その熱い演奏にすっかり魅せられて
しまいました。とくにフィナーレは、その迫力と勢いに圧倒されます。そしてボウイング。言葉で説明するのは難しいのですが、
ものすごく難しいはずのことをいとも簡単にしているように見えます。とても柔軟で美しいボウイングですね。
<マイケル・レビン>
15歳の若いレビンが登場します。なにかのTV番組でヴァイオリン持って登場してきて、登場の音楽が鳴り止むや否や
伴奏がはじまって(え、いくらなんでも早すぎるでしょう、というタイミングです・・笑)、中国の太鼓を弾き始めるのです。
彼のテクニックはあの難曲をいとも簡単に完璧に弾きこなしているのですが、むしろ僕は中間部のキレの方に惹かれました。
あんな風に弾けたらいいですねぇ。。(遠い目)
<ミッシャ・エルマン>
変わっています(^_^;)。予想外の弾き方をするのでかなり戸惑いました。楽譜に忠実にという現代の風潮とは全く違ったエルマン節
(エルマントーン)を聴くことが出来ました。正直かなり???なところもありましたが(メンコンなど)、若い頃弾いている
ユーモレスクの音色は本当に素晴らしかったです。彼も独特の音色を持っていますね。
その他にもイダ・ヘンデル、ジネット・ヌヴー、ジャック・ティボー、ルッジェーロ・リッチなど多くの巨匠が登場します。
このビデオを見て一番思ったのが、みな独特の音色を持っている、ということでした。表現方法やスタイルの違いももちろんですが、
ヴァイオリンで一番大切な「音」そのものに、巨匠と呼ばれる方々はみな魅力がありますね。それと、巨匠たちの過去の演奏が、
技術の進歩した現在においてもその素晴らしさは全く色褪せません。それどころか、巨匠達の演奏の素晴らしさに圧倒されましたね。
正直、ここまですごい方々ばかりだとは思ってませんでした(^_^;)
それとヴァイオリンを弾く身としては、巨匠達の「音」に対するこだわり、意志の強さ、集中力をとても感じました。
あの音はこうして生まれて来たんだ、ということが少しわかった気がします。自分ではいい音を出そうと、こだわって意志を持って集中して
来たつもりですが、あれを見てしまうと・・・ですね(爆)。まだまだ修行が足りませんねぇ(^_^;)。でも彼らの演奏を見たことで
とても大きな刺激を受けました。ヴァイオリンを弾くということがどういうことなのか、音を出すということがどういうことなのか、
自分にとって得るものは大きかったです。
なお、このビデオは解説が全て英語ですが、現在は国内版として日本語字幕のついたDVDが発売されております。
興味のある方多いと思いますので、一応紹介しておきます。
アート・オブ・ヴァイオリン(日本語字幕つき)
20世紀を代表する音楽家たちの名演奏を収める「アート・オブ~」シリーズ。本作は、ハイフェッツ、
クライスラーなどの偉大なヴァイオリニストたちの功績を、貴重な記録映像とインタビューで綴る。
“Forever Collection DVD”シリーズ。