弓の向きですが、すでに述べたように基本は弦と弓が直角になる ように弾きます。元から先までまっすぐに弾くというのは意外と難しいものですが、 まっすぐに弾けていないと弓が滑ってしまいしっかりとした音が出ません。また斜め になったまま弾くと弓は指板の方や駒の方へ横滑りして、最も良い接触点からずれて しまいます。試しに弓を手前に(右手を手前に)斜めにして弾くとダウンボウで指板 の方へ、アップボウで駒の方へ滑っていくのがわかると思います。
まっすぐに弾くためには全身、または上半身が写る鏡の前で練習することを お勧めします。普段弾いているときはなかなかまっすぐかどうかというのはわかり づらいので、鏡の前で左を向いて(弓と弦の直角がわかるように)弾いてみると よくわかります。慣れてくれば音で弓が曲がっているかどうかがある程度判断 出来るのですが、まずは鏡で自分の弓の向きをよく確認してみてください。
弓の向きということでもう一つ。弓の倒れ具合についても触れておきます。ここでいう 倒れ具合とは弓の棹と毛が弦に対する弓の角度のことです。理想的な弓の倒れ具合は垂直、 すなわち弓の毛が弦に100%接する状態(写真右)です。音量もあり張りのあるしっかりとした 音が出ます。逆に棹を向こう側に倒すと(指版側に倒れる)と音色は落ち着き、 音量も痩せます。基本的には弓は立てて弓の毛をしっかりと弦につけて弾くことを 意識するようにします。(下記写真右)
しかし、意図的に弓を倒す場合もあります。音がやせるのを利用して ピアニッシモなどのときあえて弓を倒して弓を速く動かして澄んだ音色を 得たり、また弓の跳ねを抑えるために少し弓を倒して一時的に弓を落ち着かせた り、などということも出来ます。また、必ずしも常に張りのある大音量が求められるわけでは ないので、垂直から30度程度倒した位置を好む奏者もいますし(上記写真左)、 そのあたりは流派や好みなどにより様々です。しかし弓のコントロールのまずさをその場しのぎならまだしも、 恒常的に弓を寝かすことでごまかしてしまうのは本末転倒ですので、 特に初歩の段階では上述の弓を立てて弾く方法をおすすめします。ある程度基礎が出来たら 自分に合った弓の倒れ具合を研究するのも良いと思います。
なお、弓先では弓を立て、弓元では弓を寝かす、というボウイングしながら弓をローリング させることを推奨するメソッドがあります。この方法には下記のようなメリットとデメリットがあります。
<メリット>
a.腕の短い奏者でも弓先まで無理なく弓を使える
b.圧力の抜けやすい弓先、かかりすぎる弓元での音量調節になる
<デメリット>
c.弓先と弓元で倒れ具合が異なるので音質が一定にならない
d.圧力のコントロールが甘くなる
腕の短い小柄な奏者にとってa.のメリットは大きいので、この方法を取り入れれば 体に負担をかけずにリラックスした状態で弾けるのであれば、取り入れてみる価値は十分あります。
が、そのようなメリットが必要ない場合、私としてはこのメソッドはあまりおすすめしませんし、 理由もなく積極的に取り入れるものとは考えておりません。 そもそも弓の倒れ具合は奏者の音楽的要求によって意識的に行うものです。b.の理由で取り入れるのであれば、 c.およびd.のデメリットの方が大きいですし、むしろ本末転倒といえます。 圧力のコントロールが難しいからといって弓を倒す方に逃げたとしても、音量は一定できても音質は一定に なりません。