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3-10. 左手編〜上行のポジション移動

さて今度はポジション移動についてです。左手編のここまでは大して悩むことなく出来ている場合が多いと思いますが、 ポジション移動あたりから苦労する人が多いようです。ということで上行のポジション移動から。

まずは第1(1st)〜第3(3rd)ポジションの移動です。A線でH,Cを1,2の指で押さえ、次のDを3rdポジションの 1で取るとしましょう。1,2を押さえた状態から2の指を離しつつ親指と1の指の位置関係を保ったまま左手を3rdポジション の位置までスライドさせてゆきます。この時の注意点は、親指と1の指の位置関係を崩さないこと(親指が遅れない)と、 1の指を弦から離さないが力を入れすぎないことです。最初はスライドをややゆっくり行いスムーズな動きを心がけ、 慣れてきたらだんだんスライドを速くします。また意識としては「滑らせていってポジションに来たら止める」ではなく、 「動く前から1の指は3rdポジションの1の位置を意識し、狙った場所に滑り込む」というようなイメージです。おそらく 最初のうちはなかなか上がった後の音程が合わないと思いますが、動かす量を覚えるのでなく動いた先のポイントを 覚えるようにしていけばあとは繰り返し練習することで正確な移動が身につくはずです。なおスライドの速度ですが、 速ければ速いほど良いというものではありません。あまりに速すぎると勢いあまった左手がポジション移動の衝撃を 楽器に伝えてしまいます。そうなると楽器が瞬間的に揺さぶられるので弓が弦の上で跳ねてしまったりして音に乱れが 発生します。ポジション移動は速くスムーズに、が原則です。

次は同じく1st〜3rdポジションへの移動なのですが、H(1st 1の指)〜F(3rd 3の指)に跳躍する場合を考えて みます。(譜面1小節目) 1の指が親指と共にH〜Dにスライドするというのは同じですが3の指を置くタイミングによってポジション移動中 の音が変わってきます。基本的には1を押さえたままスライドしていって3rdに上がったところで3を押さえます。(譜面2小節目)すると 最後のFは指を下ろすことで発音されるのではっきりとした音になり、またすべる音(ポルタメント)が低いところで 出ていることもあって聞こえにくくなります。

一般的にはポルタメントを抑えたフィンガリングを行うようにするのが常ですが、逆にポルタメントを演奏効果 として活用する例もあります。先ほどのH〜Dへのスライドの時、スライドする前に3を置いてしまい3の指でスライド していくというやり方です。(譜面3小節目) こうすると3の指のポルタメントが非常に強調されます。実際には1がスライドを始めてから 途中で3に置き換えるようにしてポルタメントの強さを調節しますが、ハイフェッツなどはこれを巧みに用い独特の甘い 音色を生み出しています。しかし、ポルタメントは日常的に用いるものでなく、素人がやたらに手を出すものでは ありません。ポルタメントは弾いている本人と聴き手に与える印象が違うことが多いため、よほど聴衆に与える演奏効果 について認識できていない限りただの気持ち悪い音になるのが関の山です(特にスローなポルタメント)。なのでポルタメント を使うに当たっては、その曲にふさわしいかどうか、どの程度使ってもよいか、ポルタメントを効果的に使うだけの技量が あるか、など細心の注意が必要です。もちろんバッハの無伴奏などには合わないでしょう。

ポルタメントは演奏効果として積極的に用いる時以外はなるべく抑えるようにするわけですが、次に記す方法 によってポルタメントを抑える、または消すことができます。

まずは全くポルタメントを伴わない方法です。これは主に指の拡張によって行われるのですが、例えばA線のHを1stの1指で 押さえている状態からEを2ndの3指で取るとします。この場合はEの音に移る時は親指と1の指は1stのまま3指を伸ばしてEを取り、 遅れて親指と1指が2ndに移行します。指が先行して手がついていくこの尺取虫のようなフィンガリングは近いポジションに 移る時、また同じようなフレーズが1音ずつ上がりながら繰り返していく時などにとても有効な方法です。 (譜例:下線のついた3指を伸ばしてとり、やや遅れて親指を含めた左手が上のポジションに移る)  このようなフレーズを弾くのに多くの人は偶数ポジションを嫌って2フレーズごとに1st-3rd-5thと上がっていきますが (この譜例では不可能でしょう・・がこの譜例はあまり良くないので時間があるときに別のものに差し替えます)、 偶数ポジションを克服し使いこなすことでポジション移動が楽になるばかりか全てのフレーズを同一のフィンガリングで弾くことが出来ます。

次も同じくポルタメントを伴わない方法です。これは使いどころが限られるのですが、開放弦を利用したポジション移動です。 ポジション移動を開放弦を弾いている時に行うのです。例えばE線3rdのAを1で取っていて、A(E線3rd,1指),A(オクターブ下のA開放),A(E線3rd,1指),F(E線5th,4指)、 という4つの音を弾く場合(下記譜例)、最後のA,Fで3rdから5thに上がるという状況になります。

この場合、Aの開放弦を弾いている間に手を5thポジションに移動しておき、次のAをA線の3指でとるとFはそのままのポジションでE線の4指で 弾けます。このように開放弦を弾いている間にポジション移動できるようにフィンガリングを工夫することでポルタメントを避け、速い パッセージでの確実な発音を可能にします。

また、ポルタメントを小さくする方法も知っておいて損はありません。ポルタメントは移動距離が大きくなるほど目立ちます。そこで、一連の 上行音階の中で半音のところでポジションを移動するようにします。するとそれだけでもポルタメントを抑えることが出来ます。

最後に、上行の長い音階、特に半音階のフィンガリングについて触れておきましょう。 まず1stポジションでの半音階ですが、古い指使いだと0,1,1,2,2,3,4,0・・というのが多いです。しかしこれは音響的にも 弾きやすさとしても好ましくありません。現在の標準では0,1,2,1,2,3,4,0・・というフィンガリングを使います。また全音階、半音階の ハイポジションへの長い音階では古い指使いでは1,2,1,2,1,2,1,2・・というパターンが多いですが、なるべく1,2,3,1,2,3・・や 1,2,3,4,1,2,3,4・・などの方が良いです(特に3連符などは1,2,3,1,2,3がよい)。古い指使いは古い校訂のもの(ヨアヒム版など) に多いので、技術的な面を重視して楽譜を選ぶ時はガラミアン版が非常に参考になります。

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